最後の晩餐
最後の晩餐
茨城 のり子
明日は入院という前の夜
あわただしく整えた献立を
なぜいつまでも覚えているのかしら
箸をとりながら
「退院してこうしてまた
いっしょにごはんを食べたいな」
子供のような台詞にぐっときて
泣き伏したいのをこらえ
「そうならないで どうしますか」
モレシャン口調で励ましながら
まじまじと眺めた食卓
昨夜の残りのけんちん汁
鶏の唐揚げ
ほーれん草のおひたし
我が家での
それが最後の晩餐になろうとは
つゆしらず
入院準備に気をとられての
あまりにもささやかだった三月のあの日の夕食