中国には、かつて欧米の宣教師によって設立されたキリスト教系の大学が多く存在していた。

その多くは当時、中国の名門大学となり多くの人材を輩出し、東西の文化交流に重要な役割を果たしていた。

しかし、1949年に中国共産党(中共)が政権を奪い取ると、これらのミッション系大学は全て閉校となった。

何故、そのようになってしまったのか？

中国共産党の政権樹立以前、中国には16の有名なミッション系大学があった。
燕京(エンケイ)大学、
斉魯(サイロ)大学、
聖ヨハネ大学、
扈江(ココウ)大学、
金陵(キンリョウ)大学、
金陵女子(キンリョウジョシ)大学、
東呉(トウゴ)大学、
之江(シコウ)大学、
華中(カチュウ)大学、
福建協和(フッケンキョウワ)大学、
華南女子(カナンジョシ)大学、
華西協和(カサイキョウワ)大学、
嶺南(ヨンナム)大学、
などの13校は、キリスト教会によって運営されていた。

震旦(シンタン)大学、
輔仁(ホジン)大学、
津沽(シンコン)大学、
の3校は、カトリック系の大学であった。

これらのミッション系大学は、北京・済南・上海・南京・蘇州・抗州・武漢・福州・広州・天津など、中国の主要都市に 位 置していた。

北京に設立された燕京(エンケイ)大学は、中国のミッション系大学の中でも、トップクラスであった。

一方、山東省済南市にあった、斉魯(サイロ)大学は、最盛期には「華北第一の大学」と呼ばれ、燕京(エンケイ)大学と肩を並べていた。

上海の聖ヨハネ大学は「東洋のハーバード」と呼ばれ、江蘇省南京市の金陵(キンリョウ)女子大学は、中国初の女子大学であり、北京の共和医科大学は当時、中国で最も優秀で、最も質の高い医学教育・研究機関であった。

アメリカボストン大学の哲学博士、王忠欣(オウチュウキン)氏は、かつて「ミッション系大学は中国の高等教育と西洋のとギャップを一挙に数百年縮めた」とコメントした。

歴史学者の章開沅(ショウカイゲン)氏は、文筆『中国ミッション系大学の歴史的運命』の中で、「中国のミッション系大学はアフリカのミッション系大学よりも教育レベルが高く、インドのミッション系大学よりも数は少ないが質は高く、日本のミッション系大学と比較すると国公立大学よりも競争力があった」と述べた。

中国のミッション系大学は、数多くの優秀な人材を養成し、東洋と西洋の文化交流を強化し、中国に於ける政府及び民間の高等教育の発展を促進した。

1949年以前、中国の大学卒業生の15%以上が、ミッション系大学の出身者で、数多くの人材が輩出された。

中国当局(中共)によるミッション系大学に対する粛清は、北京の輔仁(ホジン)大学から始まった。
輔仁(ホジン)大学は、1950年10月に中国当局(中共)へと引き継がれた。

1951年1月11日、中国当局(中共)は「アメリカの補助金を受けている教会系の学校及びその他の教育機関の取扱いに関する指示」を発布し、各ミッション系大学は、外国の教会との関係を断ち切ることを余儀なくされた。

1952年、中国当局(中共)は、大学学部の大編成を実施し全てのミッション系大学は、解散を余儀なくされミッション系大学の学部は、他の大学に統合された。

例えば、燕京(エンケイ)大学の文系学部と理系学部は北京大学に、工学部は清華(セイカ)大学に統合され「燕園(エイエン)」と呼ばれる燕京(エンケイ)キャンパスは、北京大学のキャンパスとなった。

中国当局(中共)が、ミッション系大学を閉鎖に追いやった理由は、４つ有る。

第一に、中国共産党(中共)は、無神論を信奉している。中国に於けるミッション系大学の創設者は、キリスト教徒もしくはカトリック教徒で、彼らは神を信じていた。彼らが中国に大学を設立した目的の一つは、キリスト教やカトリックを中国に広め、中国人が神を信じるようにすることであった。

神を信じる人は、創造主が天地万物を創造したと信じている。

神を信じ、神を敬い、礼拝をすることによってのみ人は、神のご加護と祝福を受ける事が出来ると信じている。

一方、中国共産党(中共)が、信奉する無神論は神の存在を否定するもので、ミッション系大学の創設者達が信奉する有神論と根本的に対立するものである。

第二に、中国共産党(中共)は、専らマルクス・レーニン主義を尊重している。

1949年8月30日、毛沢東は文筆『友好か、それとも侵略か』の中で次のように述べている。「アメリカ帝国主義者は、他の帝国主義国と比べて長い間、精神的な侵略の分野の活動に、より力を入れて来た。燕京・協和・匯文(ワイブン)・聖ヨハネ・金陵・東呉・之江・湘雅(ショウガ)・華西・嶺南など、我が国の多くの有名学校は、アメリカ人によって設立された」

毛沢東のミッション系大学に関する分析は、マルクス・レーニン主義によって導かれておりマルクス・レーニン主義は、中国共産党文化の理論体系を作り上げた。
この理論体系に於いて「帝国主義」は共産党とは対立するものである。

第三に、中国共産党は旧ソ連モデルを模倣、中国共産党は政権樹立の前から旧ソ連寄りの偏向的な体外政策を確立していた。つまり、ソ連が主導する社会主義陣営に加入し、政治・経済・文化などあらゆる分野でソ連モデルを模倣していた。

旧ソ連は多くの専門家を中国に派遣し、中国共産党が中国の教育制度を変える手助けをした。

旧ソ連の専門家、アルセーニュフは中共教育部の総顧問となった。

データによると、1949年〜1959年の間に合計861人の旧ソ連の専門家達が、中国の大学で働いたことがあるとのことである。

旧ソ連の高等教育を考え方を学ぶことで、旧ソ連と同様の高等教育制度一式が中国で確立された。

当然の事ながら、ソ連式教育とは全く異なるミッション系の大学は全て排除の対象となった訳である。

第四に、中国共産党はアメリカを敵視していた。

1950年6月25日、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)は、韓国に奇襲攻撃を仕掛け、間も無く首都ソウルを占領し、9月初めには北朝鮮軍が韓国領土の約9割を占領した。

北朝鮮の韓国侵攻に鑑み同年7月7日、
国連🇺🇳は、韓国軍をシエンし北朝鮮の侵攻に対応するため、アメリカ軍を中心とした国連🇺🇳軍を編成することを決議した。

1950年10月8日、毛沢東は中国軍を派遣し「義勇軍」として秘密裏に参戦するよう命じた。

間も無く、中国軍とアメリカ軍は朝鮮半島の戦場で交戦し、中華人民共和国とアメリカは、敵対国となった。

中国共産党が、アメリカを敵国と見なす以上、アメリカ人によって設立された大学を放って置く訳には行かない。
そして、名門大学として名を知られていた16の大学は、間も無くして全て閉校となった。

神を信じる正統派宗教の信者は、中国共産党の目の敵となり、中国共産党にとっては、不都合な存在となった。

中国共産党が権力を掌握することによって中国のミッション系大学が一掃されたのは、免れない運命だったのでしょう