さりげなく
灰皿の手前で つい
取り落してしまった 灰に
あわてることは ない
指先を唾液で濡らし
そぉっと押し付ければ
崩れもせずに 灰は
形のまま 指について来て
灰皿の中に おさまってくれる
指先を洗って
テーブルを さっと払って
それで 良い
水が無ければ 洗わなくてもいい
指先をこすり合わせ
拭くこともなく
それでも 良いのだ
黒くなった指先は
他の事にかまけている時間の中で
いつの間にか 奇麗になっているものだ
慌ててふき取っては 焼ける事も ある
しみにも なりかねない
雑巾は 真っ黒になる
あわてる事は ないのだ
さりげなく そっと
どうだよ
取り落した 心も
人も
時間も