夢だった世界
ほら!
おまえ これ 持っていけ
おっちゃん、
こいつ メス?
そや、
オンタ(オス)は…
よっしゃ!こいつな!
玄関の土間に広げた新聞紙の上に
広げたカブトムシの幼虫
父が 手際よく、
私と友達に 分けてくれる
私は小さな頃、
男の子と遊ぶ事が多かった。
父は
私がワクワクするような
遊びを沢山知っていて、
サワガニが湧いてウジャウジャいる川や、
綺麗な貝殻が 沢山ある砂浜や…
色とりどりのカナブンが
止まっている木を
なぜか知っていた。
心踊らせ、
眩しい陽射しに目を輝かせながら
狙いを定めて、手を高く伸ばす
6歳の私
逞しく、エネルギーに
満ち溢れた父が
目を細めて 私を見ていた
今の私と さほど年齢も変わらない父は…
30代とも思えるような
爽やかさと、強さがあった。
今の私と
何が違うのだろう…
私は 父の細胞を全身に受け継いだ
娘なのに。。
何が違うのか…
それは
自身の行動力だ。
父は
自分自身の体力の限界を
感じつつ、それを知りながら
自分自身と 戦っていた。
私は
戦わない。
自分に甘く、人に厳しい。
父は
自分に厳しく、人に優しい。
悲しい思いを抱える事も…
包み隠し、実行して来た。
私は
悲しい思いを抱える事からは
逃げている。
全て 蓋をして、
見ないようにしている。
多分、
違いは そういう所なんだろう。
私は…
優しい顔をして、
偽善者なのかもしれない。